しまなみ海道サイクリングレポ(前編)

matogawa1832007-06-28

以下の文章は、とある某部内誌に投稿したものに多少の手を加えたものです。

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前準備
 自宅から、小田急シティバス予約センターに電話をかけた。乗車予定の夜行高速バス、エトワールセト号は完全予約制になっており、東京側から乗車するときは小田急シティバス、三原側から乗車するときは中国バス、それぞれの予約センターに電話連絡し、乗りたい便と乗車・下車停留所を伝え、あらかじめ予約番号を発行してもらい、バス乗車券発売場所で予約番号を伝える代わりに、乗車券を発行するという手続きを踏むことになる。コンビニでも購入は可能だが、当日の午後六時までには購入すること…など、購入上の注意を聞いた。ひととおりの案内(最寄りのJTB支店についてやたら詳しく案内してくれた)を聞いた後、念の為に学割の有無を聞いたところ、往復割引はあるが学割制度はないとの答えが返ってきた

出発当日
月曜日。研究室の方々と大勝軒に行った帰りにローソンに寄り、バス乗車券を購入した。ロッピーでJTBHTAを選択し、予約番号を打ち込み、出てきたレシートをカウンターに持っていき、このときに料金を支払えばよい。研究室に帰る途中で、自分が学割をまだ発行してもらっていないことに気づいた。A号館は改修工事中であったため、工学部の証明書発行機に向かった。が、機械の画面は真っ暗で動いている様子がない・・・。学生課の発行機に行く。やはり動いていない。よく見ると、年度末は学割の発行を停止するとの張り紙が張ってあった。職員に聞くと、各学科の事務窓口で発行してくださいとのこと。
 学科の事務窓口に行く。とりあえず、職員の方に学割の発行について尋ねた。と、どうやら戸惑っている様子。どうも、学割発行専用の証明書申請用紙がないようだ。やがて、成績証明書や在学証明書の発行に使う用紙で代用することになった。その他欄に「学割」、備考欄に「帰省」と書き、提出する。普通ならば、学務の窓口で申請を行った場合、発行は3日後になるようだが、事情を話すと、その場で発行していただいた。「手書きでいいでしょー」との話し声がしたり、発行した学割のコピーを取ったりしたあと、渡されたのは、ほとんどすべてが手書きの学割であった。
 研究室での部屋の片づけが終わった時間を見計らって、研究室を出る。
 上野駅で、千葉に戻ってきていた母親と会い、食事をした後、上野駅の近くにある銭湯「松の湯」に入る。明日は、一日中自転車に乗ることになるため、出発の前日にどこかで風呂に入っておきたかったのだ。尾道に到着した後、駅の周辺で風呂に入ることも考えたが、どの銭湯も営業は午後からで、さすがに朝8時から営業している銭湯はないようだ。ホテルにろくに泊まらない貧乏旅行が多いため、旅行に出かける前に自宅で風呂に入ることにしているのだが、今回は大学から直接、夜行高速バスで尾道に向かうため、自宅に帰り、風呂に入る時間的な余裕はなかったのだった。
 高速バスの出発時刻は20:55、上野駅で母親と別れたのは19:55だから、かなり時間的に推している。これから一時間の間に銭湯を探し当て、風呂に入り、新宿駅に移動しなければいけない。いつもながら、時間に余裕のない旅だなぁ、と思った。そして、この時間的余裕のなさは、何も出発の前日に限らなかった・・・
 しばらく右往左往して松の湯を探し当て、銭湯ではゆっくりと湯船に漬かることもなく、10分で済ませた。靴箱の位置がわからず靴を持ったまま脱衣所に入ってしまったり、430円の入浴料金を一万円で支払ってお釣りを求めたり、10分で出てきたり、自分で閉めたロッカーの開け方がわからなかったり…その非常識さは、番台のおばあさんに強く印象に残ったのではないかと推察される。
上野駅に着いたときは20:15分。上野から新宿までは中央線を経由して行くことにした。山手線の外回りなら一本でいけるのだが、それでは時間が足りないと考えた。中央線経由なら、御茶ノ水から快速列車に乗り換えて早く着くことができる。
20:20頃、秋葉原駅に着いた。緩行線ホームに上ると、なぜか次列車の到着時刻が表示されていない…あー、これは…まさか…と、嫌なことを考えていると、案内の放送が入った。「ただいま緩行線には遅れが出ています」、旅行を打ち切ることを早くも考え始めた。
結局、20:30ごろに秋葉原駅を出発。御茶ノ水駅で快速に乗り換える。よっぽどあせっていたのか、新宿駅で降りる前に、青春18きっぷをバッグのどこにしまったのか忘れてしまったりした。
 日本の九龍城である新宿駅を、とにかくどこでもいいから小田急百貨店のあるほうから出る。すると正面にはNOVAの看板があり、左手には京王新宿駅、右手にはビッグカメラの建物が見える。三原行き夜行高速バス、エトワールセト号は、ビッグカメラの正面にある35番乗り場から出ている。
到着したのは20:50分、発車の五分前だ。乗り場には、センチュリーハイアットに行く乗客のいないバスが停まっていた。そのバスが出発してから、自分がこれから乗るバスが入ってきた。入り口にいる係員の方が、自分の見せた乗車券と手元の用紙を照らし合わせ、席番を確認していく。自分の席は6Cになり、 進行方向に対して右に窓があり、前方にトイレへ向かう階段がある。前方が見れないのは残念だが、前のシートが倒されてくることがないので、その点は楽だ。
 アミに差し込まれていた小田急夜行高速バスの案内をながめながら、停車時刻など一通りの説明を聞く。案内を聞いたあとは、外を見る、それにも飽きたころ、テキトーに車内テレビを見る。
 海老名SAで休憩し、そこでスタンプを押し、飲み物をひとつ購入した。
海老名出発後、消灯の時間になる。カーテンは海老名停車時に乗務員によって閉じられており、もう外を見ることはできない。シートを倒そうと思ったが、4年ぶりの高速バス、その方法も忘れてしまっていて、見かねた近くの人に助言を受ける始末だった。消灯後、どこからかさしこむオレンジ色の光に照らされた天井を見ながら、はたして、眠れるだろうか…と心配になったが、杞憂だった。

 ※1 なお、エトワールセト号には07/6/1出発の便から学割が設定された。

4/4 尾道駅周辺
6時ごろに目が覚めた。バスはまだどの停留所にも到着していないため、車内のカーテンは開けられない、当然、外の景色も見ることは出来ない。それでも、カーテンを少し開けて、外の景色を見ると、まだ高速を走っているようだった。バスが福山東インターを降りてすぐに広尾停留所に6:30に到着し、ここから先は一般道を走る。尾道駅前には、定刻どおり8:05に着いた。港湾駐車場でレンタサイクルを借りる前に、尾道駅でこれから乗車する予定のJR線の切符を購入する。ついでに、尾道駅の入場券(140円)も購入し、駅構内を見学する。日本の東西を結ぶ大動脈だけあって、ひっきりなしに貨物列車が通過する。そんななか、117系113系ミカン色を撮影。バリアフリー工事のため、古レールで組まれたホームの屋根が一部とりこわされ、鉄骨が組まれていた。エレベーターを設置するとの看板が出ている。出場時に、入場券をもらえないか頼んでみる。駅員氏が押したのは、西日本では標準的な「乗車記念/使用済」印だった。
港湾前駐輪場は、尾道駅から歩いて5分程度のところにある。レンタサイクルを借りる、書類に氏名や住所、返却予定のターミナルを記入し、レンタル料金500円と保証料1000円を支払う。レンタサイクルは借りたところと同じ場所に返すのならばレンタル料金の500円ですむが、別のターミナルで返す場合、保証料は返ってこない。今回は、今治側の糸山ターミナルで返却する予定だったので、結局1500円支払ったことになる。くわえ、そこでしまなみ海道サイクリングチケット(500円)を購入する。現金で支払っても、サイクリングチケットを購入しても最終的に支払う金額は同じなのだが、後者のほうが領収書や表紙がついており、よい記念になる。
 福本渡船はアニメ作品「かみちゅ!」に出てくる日の出渡船のモデルである。人の場合は60円、自転車を含めると70円の渡し賃がいる。ポケットに小銭が足りないことに気がついたので、渡船乗り場の脇にある自動販売機で500円玉を崩す。正直、渡船に乗るのは初めての経験であり、不安だったのだが、自分の前に地元民と思しきおばちゃんが来たので、その人の後を付いて行くことにする。渡船は、極めて小規模なフェリーというべきもので、せいぜい、自動車が3〜4台入る程度のものだ。自転車のスペースは狭いが、他の車両と触れ合って危険を感じるということはない。渡船の屋根に取り付けられたスピーカーからは、ひびわれた音楽がながれだしていた。出港のショックというものはなく、気がつけば景色が動いていた。乗車時間は数分、向島側の乗り場で、運賃70円を渡した。

向島
 さて、この付近に郵便局が二局ほどあるはずだった。しかし、自分があまりにもいい加減な地図しか作ってこなかったため、結局見つけることはできなかった。このとき、すでに時間は9:30、これではまずいということで、一路、今治を目指して走り出す。後で調べてわかったことだが、郵便局は福本渡船の乗り場近くではなく、駅前渡船の発着場の近くにあったのだった。
 バッグを自転車のかごに放り込み走り出す。まず、向島中郵便局を訪問、ここは一度誤って通り過ぎるところだった。そのまま自転車を走らせる。快調だ。やがて、右手に海が見えてくる。そして、やたら見え始めるみかんの直売所。ついつい、一袋買ってしまう。そして、食べながら自転車を走らせる。考えてみれば、今日夜行バスの中で起きて以来、初めて胃の中に食物だ。しばらく、海沿いに走ると、目の前に真っ赤な橋が見えてくる。そして、何とか坂を上りきり、対岸の島に向かおうとして気がつく、しまなみ海道の橋ってこんなに短かったっけ?そして、料金はどこで払えばいいんだろう?とここまで考えて、道を間違ったことに気がつく。あわてて引き返す自分の脇を、選挙カーが「よろしくお願いしまーす」と叫びながら通り抜けていった。
 さて、向島因島を結ぶ向島大橋が見えてきた。サイクリングロードは、いったん向島大橋をくぐり、だいぶ離れたところから、海沿いの道路を離れ、山に登っていく、少なくともサイクリングロードにはそのことを示すマークがついており、また、山に入ってからは緑色で塗り分けられており、かつ一本道なので、迷う可能性はない。しかし、50mもの高さにまで自転車で上るのは、やはりきつい。
 向島大橋は、自転車道は自動車道の下部に作られており、空がみえないことにしょげる。しかし、左右のフェンスと橋の構造物があるため、消失点があるということが、はっきりとわかって、ちょっと面白い。そして、まるで、この道路が延々と続いているような錯覚に陥る。さて、ぼんやりと突っ立って面白がっていてもしょうがないから、走る、とにかく走る。橋を渡りきったところに、記念スタンプ台が置かれている。スタンプ台と一緒に置かれていた日の焼けた用紙に、スタンプを押し、今まで渡ってきた向島大橋を撮影する。時刻は10:51。さて、楽しかったのは実はここまでだった、ここから先、筋肉痛と焦りに悩まされることになる。

因島
 緑色のサイクリングロードを下る、歩行者(橋を徒歩で渡る人がいるのだ!)や対向の自転車に気をつけながら、せいいっぱいスピードを出す。天気は少し曇りだしたが、前からの風が気持ちいい。因島に入り、大きな道路に合流すると、サイクリングロードの表示は右に曲がることを示していた。みかんの直売所は姿を消し、畑が目立つようになる。とくに、道を行く大型のトラックがちらほらと目立つ。屑鉄を扱う業者を見て、道の進む先に、造船用のクレーンが見えるようになったところで、左手に分かれる道がある。この道をまっすぐ進むと重井港に着くが、サイクリングロードの表示は左に曲がることを示している。そしてその先には緩やかな坂、そして、早速自転車を降りて押し始める俺。
 道は一車線の普通のどこにでもある道路になっていた。右手にフラワーセンターへの道順を示す標識が立っているが、無視してサイクリングロードを進む。選挙カーに追い越される。自転車を漕ぐ、降りて押す、という作業を繰り返しながら、ようやくのこと坂を下り、県道367号に合流し、左手に折れる。
 県道367号は歩道と車道がガードレールで区切られており、走る分にはまったく問題はない。地元の小学生から「こんにちは」と挨拶をされるが、正直ちゃんと挨拶を買えせいたのかどうか…。ここからさきはしばらく平坦な道のりが続き、しばらく進むと目の前に自動車道の高架橋が見えてくる。高架橋と県道が交差する手前でサイクリングロードは右手に折れ、高架橋と絡むようながらゆるやかな上り坂が続く。先には因島インター。この付近も、降りたり、押したり、再び漕いだりを繰り返しながら、先へ進む。やがて、高架と分かれてゆるやかな下り坂になる。左に曲がり、県道366号に合流する。このあたりは対岸に生口島が見え、人家や商店が非常に多くなる。たしか、簡易局があったな…と思いつつ、交差点に掛けられている町内地図を見て、通り過ぎてしまったことに気付き、引き返す。西浦簡易郵便局は道路沿いにはなく。小さな路地を海側に入ったところにある。ここで貯金。時刻は11:36だった。職員の方に、「どこまで?」と聞かれ、「今治まで」と答える。生口橋の下をくぐり、大通りを外れて、生口橋までのサイクリングロードを登りにかかる。が、力尽き、途中の田熊駐輪場で10分ほどの休憩を取り、駅前駐輪場でもらったパンフ「しまなみ海道サイクリングマップ」を眺めながら、今後の方針を決める。全体の1/4しか進んでいないことに気付き、愕然とした。

生口島
 生口橋を渡り終え、生口島に入った。橋から続く坂道を延々と降りて一般道路に合流する。ここで左に曲がると、生口島の北側を走り、島の中心市街地である瀬戸田の町に出る。右に曲がると、生口島の南側を延々と走り、特に目立った観光名所はない。せいぜいキャンプ場があるくらいだ。サイクリングロードは左に続いているが、自分はここで右に曲がる。残された時間があまりなく、走る距離は少しでも短いほうがよいと判断したからだ。走り出してしばらくは左手に海を臨み、向こう側に因島が見える。マップ上に見える「赤崎フェリー乗り場」の記述に心惹かれるものを感じつつ、通り過ぎる。いつかは、これら離島をつなぐ小規模な航路にも乗ってみたいものだ。数分自転車を漕ぎ続けると、対岸に岩城島が見え始め、やがて人家が多くなった。佐屋の集落に入ったのだ。ここらで県道317号を少しはずれ、偶然見つけた雑貨屋にてガムをひとつ購入し、ついでに郵便局の場所を聞く。店のおばさんは、この県道をずっと進むと、左手の見えるJAの中にあると教えてくれた。12:20頃、東生口簡易郵便局を出発する。このあたりから、筋肉痛が無視できなくなり、腿をたたいて痛みを和らげながら走る。12:40頃、御寺郵便局訪問。正直、今日はすでに簡易郵便局を二局も訪問したことだし、時間も推しているので、もう郵便局はめぐらなくていいと考えていたのだが、標識に案内されるまま、結局訪問してしまった。その後は、筋肉痛を和らげながら、学校の廃墟を撮影したり、山肌に見えるしまなみ街道を快調に走る自家用車をうらやましく思ったりもしながら、漕ぐことと歩くことを繰り返す。13:10頃、ようやく多々羅大橋が見えてくる。見えてから橋の入り口まで走ること10分、そして、延々と橋まで坂道を上ること10分。橋を渡ること数分。ようやく、多々羅大橋をわたり、愛媛県側に入った。(続く)